寄せては返す波のように

あなたを好きだと言わせて欲しい

 

舞台に立たれる姿を見て、不思議と涙が出てきた。

舞台の上で優雅に微笑み、歌い、踊る姿を見て、ずっと見ていたいと思った。

そんな風に心を揺さぶられる人に出会ったのは久しぶりだった。

 

 

宝塚歌劇を見はじめたのはここ最近のお話。

運良く手に入れた月組トップスター珠城りょうさんのお披露目公演から。

その次の次に見たのが「仮面のロマネスク/EXCITER」公演。仙名彩世さんのトップ娘役としてのお披露目公演だった。

なんとなく、男役にハマるのかなと思いながら、とりあえずすべての組を見てみたいと思っていた頃だった。

ふんわりとしたドレスのふくらみとは対照的に、ウエストや腕は折れそうなほどに細く、所作はたおやかで美しい。そんな彼女の高く滑らかで、ベルベットのような歌声が衝撃的だった。

ああ、とんでもないものを見たなあと思ったのはその時。

それから、次に、彼女に驚かされたのは「ハンナのお花屋さん」。

役どころは難民のミアという女性。出演時間はメインヒロインだということを考慮すればそんなに多くはないだろう。けれども、その短い中でも十分に私の中に鮮烈な記憶を残している。

この時の彼女の歌は仙名彩世の歌じゃなくて「ミアの」歌だった。難民として、地雷で弟を亡くして異国の地で頑張る、けれどもうまくいかないことがたくさんある。そんな彼女のおかれた状況のままならなさや哀しみ、希望への渇望をのせた歌だった。

歌声は以前にも聞いたとおりの伸びやかな高音ときれいな音程だったのに、お披露目公演の時に聞いたものとは全く違っていた。

完全に「ミア」の歌だったのだ。

赤坂で、思わず、彼女の歌を聴いて泣いてしまった。

それから何度かテレビ視聴を含め観劇をしたけれども、お芝居の中ではいつ見ても彼女は「役」として存在している。舞台上で見る彼女はいつも「役」だ。「役」が生きて、歌い、踊る。知らず知らずのうちに引き込まれる。

宝塚歌劇はそもそもコスチューム、お化粧はもとより、タカラジェンヌさんの日々の研鑽から、「ジェンヌさんだけれども彼女ではない、作品の中のひとり」を演出するのがとても上手だ。役に少しずつタカラジェンヌさん個々人の持つ色を加えて、舞台の上に立たれている。

その中でも、彼女が、私にとって一番、心を揺さぶる、「役」としての生き方をされている。舞台の上に生きているのは仙名彩世さんではなく、メルトゥイユ夫人であったり、額田王であったり、ミアであったり、シーラであったり、その時々で全て違う。いつも同じように美しい歌声なのに、いつもその中にその時々の役が生きている。役の思いが乗っている。

きっと観劇される方のなかで、みんなそれぞれ心の中に一番心を揺さぶる人がいると思うけれども、私にとってはそれが彼女だった。

 

 

「MESSIAH/ Beautiful Garden」

彼女のことを初めて宝塚大劇場で見た。宝塚大劇場に行くのは初めてではなかったけれども、彼女をどうしても見たくて、訪れたのは初めてだった。普段は東京に住んでいて東京宝塚劇場にばかり行っている私からすると少し大仰な観劇だった。

レヴュー最後の、花束を持ちスミレ色のドレスを纏い、稀代のトップスターである明日海りおさんとデュエットダンスをする時の彼女はとても美しかった。

どことなく明日海りおさんの退団を示唆するような歌詞や雰囲気に合わせて既に涙してしまっていたけれども、2人の歌とダンスの美しさにさらに泣いてしまった。美しいものは、それだけで人を泣かせるのかと思うくらいだった。

ずっと、「役」として舞台上に立たれる彼女のことを素敵だと思っていたけれども、あのダンスの時の彼女は紛れもなく仙名彩世さんただその人であって、この美しさが、この人の本質なのだとその時思った。

きれいな歌声も、美しい所作も、滑らかに優雅に踊られる姿も、全部、彼女の日々の研鑽がもたらしたもので、その努力の結晶がこんなにも美しい姿になるのだなあと。

何度も彼女が歌い踊る姿を見ているのに、今回改めて強烈にそれを意識した。

バレエダンサーの宮尾俊太郎氏が先日テレビで「客席にいるとその人の命が削れてキラキラしたものが見える」と仰っていた。

あのデュエットダンスはまさにその命が削れたキラキラの破片を振りまく、そんなダンスだった。

その破片を浴びながら、この人が舞台に立つところが、私は好きなんだなと感じて宝塚大劇場の客席で1人、静かに泣いた。

この人が舞台の上にいることが好きだと感じた。「役」としての生き方が私の心を揺さぶるのだと思っていたけれども、きっとそれだけではなく。「役」として「仙名彩世」として美しいキラキラの破片を振りまくその様が、私の心を揺さぶるのだ。うまい表現が見つからなくて悔しい限りだけれども。瞬きするのも惜しいくらいのキラキラの破片を、出来ればもっと、浴びていたい。それを好きと表現する以上の言葉が出てこない。

 

 

 

誰かのファンだ、と人に話すのは少し勇気がいる。

別に自分から言う必要なんてないけれど、宝塚を観に行くことが増えたという話をすると決まって「だれが好きなの?」と聞かれる。

今まで、なんとなく答えられなかった。

様々な理由で明言するのが少し怖かったけれども、今なら言える。ちょっとしたケジメのような、そんな違いだけれども、口に出さないことの惜しさが今までの私に勝る。

私にとって、心を揺さぶるパフォーマンスをしてくれる人。「役」としても「本人」としても美しく舞台上に生きてくださっている。

 

 

仙名彩世さん、私はあなたのファンです。

そう言わせて欲しい。